このラダーに異論のある方はいらっしゃいますか。
−異論はありませんが、これが案であるという事情がちょうど1年前にTwycross先生の会で議論し、このステップのどれを2にしどれを3にするかというところで、西ヨーロッパとアメリカの学者と少し意見が合わないところがあって、まだ世界的に至っていないという段階であることだけ追加しておきます。もう少し臨床研究が進むとまもなく一致をみると思います。
−ステップ3ですが、不整脈だけでなく、頻脈を伴った不整脈というのが正しいのではないかと思うのですが。
武田 それはそうなのですが、クラス1の抗不整脈薬という日本語で総括される薬が二つか三つあがっているということでよろしいと思います。患者さんが頻脈を有するかどうかということはここでは問わないということです。
西立野 もともとはキシロカインですけれど、実際には抗不整脈薬として使われるのはメキシレチンですね。
−三環系と抗痙攣剤を両方使ってなお効かないものに対して3段階目として抗不整脈と書いてありますが、たとえばメキシレチンなどでも実際にコントロールできた症例があるのでしょうか。
Andrew まだ十分なトライアルが積まれていないのでどの薬をどのステップに入れるかという分類をするところに至っていないというのが現状だと思います。これは階段方式になっていますが、そうではなくて患者別にこの薬が駄目だったらこれというような形で代替薬をいろいろ試すという方式のほうがいいのではないかと個人的には思っています。
武田 同感です。常に大成功を収めるという種類の痛み止めでないということも私たちはよく知っておく必要があって、大幅な緩和を目指すことがまず最初の目標で、うまくいったら全部コントロールできたらいいという考えでいかないと泥沼に入るかもしれません。
Andrew 具体的にオピオイドを使った場合の受容があったとか、非受容的だったというようなことについて、結果について申し上げたいと思います。シャロン・ワタナベ先生とエドワード・ボレラ先生はカナダで研究をしておられるのですが、用量と効果の曲線については皆さんご存じですが、鎮痛効果がA曲線、毒性の曲線をTとしますと、痛みがオピオイドを投与して反応した場合には
T曲線とA曲線の間のところが治療を行いうる窓、ウィンドウだということになります。相対的なオピオイドの反応がないというようなことを考えてみますと、神経損傷による恒常的な痛みではなくて、時々起こるような痛みというのはA曲線のような曲線を描くと思います。癌患者の中の何%かには特定の用量を投与した場合には毒性の問題が出てくるということに気づかれたと思います。特定の痛みを緩和するためにこれだけの用量が必要だという量を投与いたしますと、A曲線が右へ移動するということで、右へ移動した場合にはT曲線の毒性のXのところに問題が生じることになります。中毒になるということです。必要な量を投与するとこの毒性の問題が出てくるので、治療する窓がまったくなくなってしまいます。それで痛みの度合いによってはオピオイドの必要な量を投与することによって全然治療ができないといった状況も出てきます。そういう状況に立った場合どうしたら改善できるか、A曲線とT曲線を離すことによってもう一回治療の可能性の窓を開こうということです。
その方法ですが、鎮痛曲線A曲線を左へ移動するか、毒性のT曲線を右へ移動するかして、結果は同じなのですが、窓を確保しようということです。三環系抗うつ剤とか抗痙攣剤を使うことによってこのウィンドウを確保することも可能です。
要するに、毒性をなるべく下げて、鎮痛効果を上げるということでは鎮痛補助薬をなるべくたくさん併用することが答えということになります。異なる作用をもつ異なる鎮痛剤を併用することによって、その毒性曲線と鎮痛効果の曲線をうまく管理するというアプローチです。
“逆説的な痛み”
“逆説的な痛み”という言葉を聞いたことがありますか。これは、当初オピオイドに反応を示した効果があったという痛みでありながら、モルヒネに対する許容も増えていくといったような状況をいいます。ですからモルヒネの対価は増える一方で突然モルヒネは痛みを和らげるどころかかえって悪化させてしまう状況になるのです。それに対する説明がいろいろ試みられておりまして、モルヒネの代謝物には主なものが二つあるのですが、モルヒネ−6−グルクロナイドとモルヒネ−3−グルクロナイドですが、この代謝物の比率が変わってしまうということがありうるというわけです。
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